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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)12185号 判決

原告 渡辺辰美

被告 株式会社読売新聞社 外一名

主文

一、被告株式会社読売新聞社は原告に対し、金一〇〇万円およびこれに対する昭和四一年一二月二四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告静野幸に対する請求を棄却する。

三、訴訟費用は、原告と被告静野幸との間においては全部原告の負担とし、原告と被告株式会社読売新聞社との間においては原告について生じた費用を二分し、その一を同被告の負担とし、その余の費用は各自の負担とする。

四、この判決は原告が金三〇万円の担保を供するときは、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

一、原告訴訟代理人らは、(一)主文第一項と同旨および「(二)被告静野幸は原告に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和四一年一二月二四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。(三)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに右(一)(二)項につき仮執行の宣言を求め、請求原因として、

(一)  被告会社は、日刊「読売新聞」を発行する新聞社であるが、昭和四一年六月三日付読売新聞の都内版社会面に「ビル建設でサギ、元刑事ら二人書類送検」という見出しで、別紙記載のような記事(以下本件記事という)を掲載報道した。右記事によれば、原告は私文書を偽造して訴外日本文化住宅協会を欺罔し、受取つた手形のうち、すでに三〇〇万円分の手形を金融業者において割引いて現金化したり、借金の担保にあてたりしていた、というのであつて、これにより原告はその名誉、信用を毀損された。

(二)  本件記事は、被告会社の被用者がその業務の執行として取材(取材したのは記者中保章である)、編集、発行したものであり、これらの者は本件記事が原告の名誉を毀損することにつき故意または過失があつた。よつて被告会社は使用者として右名誉毀損につき責任を負うべきである。

(三)  被告静野は、警視庁愛宕警察署の捜査課告訴係刑事であつて、訴外日本文化住宅協会から原告および訴外斉藤芳吉に対する詐欺容疑による告訴事件につきその取り調べにあたつたものであるところ、昭和四一年六月三日の数日前、本件記事のような事実を被告会社の記者中保章に漏らし、その結果本件記事の報道がなされたのである。原告はかつて同警察署の刑事をしていたことがあり、被告静野はそのころから同僚である原告を快く思つていなかつたものであるが、たまたま原告に対する右のような取り調べを行い、従来の悪感情から原告の名誉を毀損するため故意に、職務上知り得た秘密を新聞記者に漏らしたのであり、少くとも新聞記者に事件の内容を打ち明けること自体重大な過失がある。よつてその結果掲載報道された本件記事により原告の受けた名誉毀損につき、同被告もまたその責任を負うべきである。

(四)  原告は、昭和三四年ごろから電話取引業ならびに不動産取引業を営み、かたわら平和信用拓殖株式会社の取締役、村上ビル管理人をしており、また東照宮総代等の役職にもついていたのであつて、世間一般の信用があつたものであるが、本件記事によつて右管理人の仕事は断わられ、取締役の職は引責辞職のやむなきに至り、得意先からの電話売買、または土地売買の注文はなくなり、ひいては生活の脅威を感ずるほどに名誉、信用を喪失し、精神上多大の苦痛を蒙るに至つた。原告のこのような精神上の損害に対する慰藉料は被告らに対し各一〇〇万円が相当であるから、原告は被告らに対し、それぞれ金一〇〇万円の支払いとこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四一年一二月二四日から支払い済みまで年五分の割合による損害金の支払いを求める。

と述べ、被告会社の抗弁に対し、

本件記事のうち原告が東照宮境内に学生旅行会館建設の計画をたてゝいた点、日本文化住宅協会が原告を愛宕署に告訴した点、および原告がもと同署の捜査係刑事だつたことがある点はいずれも真実として認めるが、本件記事中その余の部分の真実性は否認する。原告が私文書を偽造し、詐欺を行つたとの点は全く事実無根である。その余の抗弁事実はすべて否認する。

と述べた。

二、被告会社訴訟代理人らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、

被告会社が「読売新聞」を発行する新聞社であつて、原告主張の日付の同新聞に、原告主張のような標題で本件記事を掲載報道したこと、および本件記事は被告会社の被用者が取材、編集、発行したものであることは認めるが(但し本件記事を取材したのは中保章記者ではなく、被告会社の記者高実徹である)、その余の事実は否認する。

本件記事は要するに「原告はその記事内容のような詐欺容疑で日本文化住宅協会から警視庁愛宕警察署に告訴され、同署から書類送検された。原告はかつて同警察署の捜査係刑事をしていたことがある。」というに尽きるのである。

と述べ、抗弁として、

(一)  本件記事は右に述べた点に尽きるのであつて、その記事の内容は真実である。しかも記事内容の事実は未だ公訴の提起されていない人に対する犯罪事実に関する事実であるから公共の利害に関する事実であり、本件記事掲載の目的はもつぱら新聞紙発行業務に課せられた社会的使命に基づく公益を図ることにある。したがつて刑法第二三〇条の二第一、二項の趣旨に照し違法性を欠き、不法行為にはならない。

(二)  本件記事は被告会社において原告の名誉を毀損するため、故意に真実を歪曲して掲載したものではなく、新聞紙に課せられた公益的使命に基づき、公益を図る目的で掲載されたものであるから、これは新聞紙発行業務に許容された言論、出版の自由の範囲内に属する正当な業務行為である。したがつて刑法第三五条の趣旨に照し違法性を欠き、不法行為とはならない。

(三)  仮に本件記事が真実ではないとしても、取材に当つた高実徹は本件記事内容の事実を捜査当局その他から取材し、これが真実であると信じて執筆し、記事にしたのであつて、右事実を真実であると信じるについて相当な理由があつたから、故意過失はなく、不法行為とはならない。

(四)  被告会社は被用者たる高実徹記者の選任および監督について相当の注意をしていたのであるから、被告会社には損害賠償の責任はない。

と述べた。

三、被告静野訴訟代理人らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、

被告会社が「読売新聞」を発行する新聞社であり、原告主張の日付の同新聞に本件記事を掲載報道したこと、被告静野が警視庁愛宕警察署の捜査係告訴事件担当の警察官であつて、原告主張の告訴事件につきその捜査にあたつたこと、および原告がもと同署の捜査係警察官だつたことがあり、被告静野のかつての同僚であつたことはいずれも認める。しかし本件記事の掲載報道が被告会社の被用者の故意または過失によるものであるとの点、および原告の職業ならびに本件記事によつて原告が精神的苦痛を蒙つたとの点は知らない。その余の事実は否認する。被告静野は被告会社の記者中保章とは全然面識もなく、したがつて同記者に右告訴事件のいかなる情報を提供した事実もない。

と述べた。

四、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告の被告会社に対する請求について。

(一)  本件記事による名誉毀損の成立。被告会社が日刊「読売新聞」を発行する新聞社であるところ、昭和四一年六月三日付の同新聞都内版社会面に「ビル建設でサギ、元刑事ら二人書類送検」という見出しで本件記事を掲載報道したこと、右見出しおよび本件記事は被告会社の被用者がその業務の執行として編集または取材したものであることは当事者間に争いない。本件記事の原告に関する部分は要するに「愛宕署は原告を私文書偽造、詐欺容疑で書類送検したこと。同署の調べによると、原告は東照宮境内利用計画のための用地として、東照宮に隣接するジヨージ・デクート所有の土地を買収すると称して、同人の土地売却委任状を偽造し、これを日本文化住宅協会に持ち込み、同協会より一一〇〇万円の約束手形をだまし取つたこと。同協会は原告を同署に告訴したが、原告はこの手形のうちすでに三〇〇万円分を金融業者において割引いて現金化したり、借金の担保にあてゝいたこと。原告はかつて同署の刑事をしていたことがあること。」を内容とするものであるということができる。

ところで名誉毀損の成否は、通常人がその記事を読んでいかなる印象を受けるかを標準とするものであるところ、本件記事はなるほど「調べによると」として以下原告の私文書偽造、詐欺の事実が摘示されており、愛宕警察署の捜査結果をその発表に基づいて摘示したような形式をとつてはいるが、記事全体としては、右のような見出しと相まつて、原告が真実に右のような私文書偽造、詐欺の犯罪を犯したものであるとの印象を読むものに与えることは否めない。そして右のような事実は犯罪の容疑に関するものであるから、これが新聞記事として報道されたことにより、その犯人として摘示された原告の社会的評価、信用を低下させ、したがつて原告の名誉を害したことは明らかである。

(二)  本件記事による名誉毀損の違法性。

(イ)  本件記事の真実性

民法上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実にかゝり、もつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であれば、その行為は違法性を欠き、不法行為とはならないと解されるので、以下本件記事が真実に合致するかどうかにつき検討する(なお被告会社は本件記事内容が、告訴および送検の事実と原告がもと刑事だつたことがあるとの事実に尽きるものとし、その点の真実性をまず主張するものゝようであるが、本件記事が前段認定のとおりのものである以上、その違法性を阻却するには右の点の真実性だけでは足りないものといわなければならない)。

本件記事のうち原告が東照宮境内に学生旅行会館建設の計画をたてゝいた点、日本文化住宅協会が原告を愛宕署に告訴した点、および原告がもと同署の刑事だつたことがあるとの点がいずれも真実であることは当事者間に争いない。しかしながら原告が本件記事内容のような私文書偽造、詐欺の犯罪を犯したことについては、右告訴事件の捜査にあたつた警察官である被告静野本人の尋問の結果によつてもこれを認めることはできず、他にこれを肯認するに足りる証拠もない。

かえつて証人松本宏一郎の証言とこれにより真正に成立したと認められる甲第四、六号証、証人斉藤芳吉の証言とこれにより真正に成立したと認められる甲第五号証、証人吉村義雄の証言とこれにより真正に成立したと認められる甲第七号証、および原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第二、三号証によれば、次の事実が認められる。

すなわち、

(1)  原告は昭和四〇年七月から東照宮の氏子総代となり、そのころから東照宮造営計画および東照宮境内開発計画の一環として東照宮境内に地下駐車場、学生宿舎を含むビルを建設する計画の実行に関与していたものであるところ、たまたまそのころ右境内に隣接するジヨージ・デクートことエリザベス・デクート所有の土地が売りに出されたので、原告は右計画を実行するためには、ぜひこれを東照宮において買取る必要があると考え、総代会の賛同を得た。

(2)  原告は右総代会にオブザーバーとして出席していた斉藤芳吉に対し、差し当つては買収資金がないので、これが調達できるまでの間一時東照宮のためにこれを買取つてくれる者はないかと相談したところ、斉藤は原告に財団法人日本文化住宅協会を紹介した。

(3)  このようにして昭和四〇年一二月二八日東照宮氏子総代の原告と、同協会との間に「同協会がデクート所有の土地を坪当り三五万円、総額三八五〇万円で買受けるにつき原告が斡旋すること、および原告はこれを昭和四一年三月末日限り東照宮用地として坪当り四五万円で買受けることゝし、同協会はこれを他に売却しない」旨の契約が成立し、その際同協会は原告に対し約束手形八通(合計金額一一〇〇万円)を振出交付した。ところが斉藤は右約束手形の授受がなされた席で原告に対し「右約束手形八通のうち三通(四〇〇万円分)は同協会との了解により自分が預つておきたい」と申出たところ、原告は右のような了解がなされているのかどうかは知らなかつたが、斉藤が従前から同協会との交渉にあたつていたこともあり、また同協会の下川総務部長がこゝに同席していながら何の異議もとなえなかつたこともあつて、斉藤の言を信用し、その場で約束手形三通(合計金額四〇〇万円)を斉藤に手交した。

(4)  その後原告は自己の手元に残つた約束手形五通につき、これを右土地売買の手附金にするため、取引先銀行で割引こうとしたところ、同協会の信用不足のためついに割引くことができず、更に昭和四一年一月五日ごろには同協会の参与であつた松本宏一郎から、同協会としては残金の調達には確信が持てない、との連絡を受けたので、原告としては同協会との間の前記契約は解約することゝし、同年一月一三日自己の所持する右約束手形五通を松本を通じて同協会に返還した。

(5)  更に原告は斉藤に対し、同人が所持している筈の右三通の約束手形について、これを同協会に返還すべきことを求めたところ、斉藤は同年二月五日原告と同協会の右下川、松本らとの面前で、原告に対し、これを同協会に直接返還し、原告にはこの件について迷惑をかけないことを約した。ところが斉藤がその履行をしないうちに、同協会から原告および斉藤に対する告訴がなされたのである。

(6)  なお前記契約に際し、デクートの「土地売却承諾書」なるものが作成されていたが、この作成の手続は斉藤が竹迫直三郎に指図して行つていたものであつて、原告はこれに関与していなかつた。

以上の事実が認められる。右事実と右証人斉藤芳吉の証言ならびに原告本人尋問の結果によれば原告がデクートの土地売却の委任状を偽造し、日本文化住宅協会を欺罔して同協会から合計一一〇〇万円の約束手形を振出させてこれをだまし取り、そのうち三〇〇万円分を現金化したり、借金担保にあてゝいたとの事実はなかつたものと認められる。

そうすると本件記事のうち原告が右のような犯罪を行つたとする重要な部分につき、真実の証明がないことになり、これが真実であることを前提とする被告会社の違法性阻却に関する抗弁は理由がないことに帰する。

(ロ)  業務行為の正当性

被告会社は本件記事の掲載報道は新聞社としての正当な業務行為であるから違法性を欠くと主張するが、右のとおり本件記事が他人の名誉を毀損すべき内容のものであり、しかもその内容が真実でなく、かつ後記認定のとおり、被告会社がこれを真実と信じたことに相当の理由が認められない以上、そのような記事を掲載報道することが正当な業務行為であるとは到底いえないのであるから、右の主張は採用できない。

(ハ)  相当の理由の存否

本件記事が被告会社の被用者により取材、編集、発行されたものであることは当事者間に争いない(但し証人高実徹の証言によれば、これを取材執筆した記者は原告主張の中保章ではなく、高実徹であり、見出しは被告会社整理部の担当者により作成されたと認められる)。本件記事の内容の重要な部分が真実でないことは右に見たとおりであるが、記事内容が真実でないとしても、行為者である被用者がこれを真実であると信じ、そう信じるについて相当の理由があれば、右名誉毀損の行為には、故意過失がなく違法性を阻却するものと解されるところ、記事内容の真実性が名誉毀損の違法性を阻却する事由として行為者の主張立証すべき事項であることを考えれば、右の点も違法性阻却事由の一として行為者側である被告会社において立証すべきものである。本件において被告会社は、取材にあたつた高実徹記者がこれを真実であると信じるにつき相当の理由があつたと主張するので検討する。被告静野本人の尋問の結果によれば、前記告訴に基づいて原告の取り調べにあたつたのは愛宕警察署の告訴係警察官である被告静野であり、右事件の捜査は昭和四一年五月三〇日に終了したものであることが認められるところ、証人高実撤の証言と右被告静野本人尋問の結果によれば、被告静野が高実徹その他の新聞記者に原告に対する右告訴事件に関する情報を提供した事実はなく、また愛宕警察署は公の広報活動として本件を新聞記者に公表した事実はなく、したがつて本件記事の取材にあたつた高実徹も同被告または正規の警察の広報活動からその情報を得たのではないことが認められる。ところで証人高実徹は本件記事の取材源について単に愛宕署の警察官から取材したと証言するのみで、誰から取材したかについてはニユースソースの秘密として、具体的証言を拒絶するので、その取材源をつまびらかにすることはできないが、同証言と前記認定の事実を総合すれば、高実記者は本件容疑事実の風聞を耳にし、昭和四一年五月初旬および同年六月二日愛宕警察署に赴き、同署の警察官で本件を知つていた者から私的な情報を得て本件記事を作成したことが認められる。このように捜査当局の公の広報活動による情報でなく、単なる風聞と私的な情報を基にして作成した犯罪事実に関する記事が真実に反するときは、原則としてその記事の作成に過失があると認めるべきであるが、同記者がその情報を得るについて、これが疑う余地のないほど正確のものであると信じても無理もないような状況の下で取材がなされたことについては、これを肯認するに足りる証拠は存在しない。しかも同証人の証言によれば高実徹記者は愛宕署から得た情報の裏づけとして、告訴人である日本文化住宅協会に電話で告訴の事実を確めたほかは、みずからその真否を確めるような調査を何ら行うことなく、原稿を作成し、これに基づき、漫然被告会社の編集を経て本件記事が現出されたことが窮える。そうだとすれば高実徹記者ならびに被告会社編集責任者が本件記事の原稿紙面を作成するにあたり、仮にその内容が真実であると信じたとしても、そう信じるについて相当の理由があつたとは到底認め難いのであり、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

そして他に被告会社の被用者において本件記事が真実であると信じるについて相当の理由があつたとの主張立証もないのであるから、本件記事の報道は被告会社の被用者の過失によるものと認めるべきである。

(三)  被用者の選任および監督の過失。

被告会社は、被用者である高実徹の選任監督につき相当の注意をしていたから、被告会社に責任はない旨主張するが、これを肯認するに足りる証拠はないので右主張は採用できない。

よつて被告会社は使用者として原告に対し、本件記事の報道によつて原告が受けた損害を賠償すべき責任がある。

(四)  賠償額。

原告本人尋問の結果によれば、原告(現在四二歳)はもと愛宕警察署の警察官であつたが、昭和二六、七年ごろ退職し、以後不動産および電話取引業を営んでおり、かたわら平和信用拓殖株式会社の取締役、東京都電話取引協会の常任理事、さらにビル、アパートなどの管理人をしていたものであるが、本件記事が報道されたことによりその社会的信用は著るしく低下せしめられ、そのため右の役職は辞任のやむなきに至り、得意先からの注文も減り、多大の精神的苦痛を蒙るに至つたことが認められる。このような事情ならびに先に認定した一切の事情をしんしやくし、原告が本件記事によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉するには金一〇〇万円をもつて相当と認める。よつて被告会社は右の金員とこれに対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四一年一二月二四日から支払い済みまで年五分の割合による損害金を支払うべき義務がある。

二、原告の被告静野に対する請求について。

被告静野が警視庁愛宕警察署の捜査係告訴担当の警察官であり、日本文化住宅協会の原告に対する告訴事件につき、その捜査にあたつたものであることは右当事者間に争いない。しかしながら同被告が被告会社の取材記者に対し、右告訴事件に関する情報を漏らしたと認めるに足りる証拠は存在しない。かえつて上段認定したとおり、被告静野は取材にあたつた高実徹記者その他の新聞記者に右事件の情報を提供した事実はなかつたものと認められる。

よつてその余の点を判断するまでもなく、原告の被告静野に対する請求は理由がない。

三、結論。

以上のとおりであるから原告の被告会社に対する請求は正当として認容し、被告静野に対する請求は失当として棄却することとゝし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩村弘雄 舟本信光 原健三郎)

別紙

「東京・芝の東照宮境内に高層ビルを建てる」とのふれこみで財団法人日本文化住宅協会(千代田区有楽町、三信ビル内、理事長益谷秀次氏)から手形をだまし取つた不動産屋二人が、二日までに東京・愛宕署から私文書偽造、詐欺の疑いで書類送検された。

東京都港区芝公園一号地一、会社役員渡辺辰美(四〇)と埼玉県浦和市本太一の一八〇、不動産業斉藤芳吉(六三)。

調べによると、渡辺は昨年十一月ごろ、東照宮境内利用開発計画として、芝公園内に総工費十六億円で地上十一階、地下二階のビルを建て、地下駐車場や学生宿舎にすると称し、青写真を作つた。用地としては東照宮境内に隣接するポルトガル人ジヨージ・デクートさん所有の土地を買収すると称して、デクートさんにことわりなしに土地売却委任状を偽造、さらに「渡辺ほか一人に建築と土地買収を一任した」という東照宮の″講″の総代決議書などを用意し、斉藤と二人で日本文化住宅協会に持ち込み「デクートさんの土地はビル建設のため、東照宮がいずれ高く買い取るが、いま資金がない。われわれが先に買つておけばもうかる。利益を分けてやるから、手付け金を出してくれ」と持ちかけ、計千百万円の約束手形を振り出させた。

同協会は愛宕署に告訴する一方振り出した手形のうち八百万円分は取り返したが、残り三百万円分は、すでに渡辺らが金融業者の所で割り引いて現金化したり、借金の抵当にあてていた。渡辺は終戦直後から昭和二十三年ごろまで愛宕署の捜査係刑事だつたこともあつた。

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